あなたの働いた分の残業代はきちんと支払われていますか?
近年、労務管理が一層重要視されるようになってから、残業代等の支払をきちんと行う会社は増えていますが、まだまだ残業代未払の問題が多く存在します。
最近では、残業手当や営業手当などの名目に、「すでに全ての残業代が含まれている」といった主張を会社が行うケースが数多くあります。いわゆる「みなし残業代」の問題です。しかし、働いた分の残業代がきちんと含まれているかは、会社の規則や法所定の計算方法によりきちんと計算してみなければわかりません。
1日8時間または週に40時間を超えて働いている方は残業代が発生している可能性が高いため、是非一度弁護士に相談してください。
Sさんのケース
私は、月給30万円で働いています。現在の会社に入社してからもう3年になるのですが、1年目の後半から少しずつ仕事が忙しくなり、残業時間が増えました。深夜まで残業したりすることもあります。本来は休日である土曜日や日曜日も出勤することがあります。でも、会社からは月給30万円のみしか支払われていません。残業代や休日出勤手当は支払われないのでしょうか。
→ いわゆる「サービス残業」になりますので、法律上定められた計算方法に基づいて、未払残業代(時間外手当)や休日出勤手当を請求することが可能です。
1 残業代が発生する仕組み
残業代は、定められた勤務時間(所定労働時間)を超える労働を行った場合に発生します。定められた勤務時間とは、会社との労働契約(雇用契約)で決められるものです。
たとえば、上記のSさんについて、入社時に9時から17時まで(休憩時間は1時間)勤務することが労働契約の内容として定められているとします。仮に、Sさんが9時から19時まで仕事をした場合、所定労働時間を2時間超えて働いたことになりますので、会社はSさんに2時間分の残業代を支払わなければなりません。
これに加えて、労働基準法では、労働時間は1日8時間まで、1週間で40時間までと定められおり、これらの時間を超えて仕事をした場合には、所定の割増賃金を支払わなければならないとされています。
したがって、Sさんは、2時間分の残業代を通常の賃金より所定の割増率で請求することが可能になります。
2 みなし残業について
では、仮にSさんに対して、固定の残業代(みなし残業代)が支払われている場合はどうなるのでしょうか。
みなし残業とは、一般的に賃金や手当の中に、 例えば「月20時間の残業を含む」などとされており、 月20時間までの残業代は、賃金とは別に残業代として支給されない賃金体系のことをいいます。
固定残業制度(みなし残業)を採用している場合、 決められた一定の時間分に関しては、 労働基準法で定められている週40時間を超える時間外労働に対する割増賃金や夜10時から朝5時までの深夜割増賃金、休日に仕事をすることに対する割増賃金を支給しないのが一般的です。
しかし、みなし残業制度として定額の残業代が支払われていても、実際に行われた残業時間が多く、残業代の合計が定額の残業手当を上回る場合に、上回った部分については、別に残業代を支払わなくてはなりません。
現実には、みなし残業代分を超える残業時間があっても、超えた部分に関しては支払われず、サービス残業となるケースが多く、未払残業代の一つとして問題になっています。
したがって、すでに残業代は手当に含まれているなどと会社がみなし残業制に関わる主張をしている場合であっても、直ちに残業代の請求が困難になるわけではありませんので、要注意です。
3 残業代の計算方法
基本的には、月々の給与を時給に換算し、時間数と割増率を掛けていくという方法になります。具体的な割増率は、次のようになっています。
種類 | 割増率 |
時間外労働 | 25%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
時間外・深夜労働 | 50%以上(25%+25%) |
休日・深夜労働 | 60%以上(35%+25%) |
Sさんの場合、月給が30万円であるため、たとえば、ある月の所定の労働時間が160時間であるとした場合、時給1875円ということになります。仮に、平日に毎日3時間程度の残業があった場合、所定労働日を20日とすると、3時間×20日=60時間の残業時間になります。そうすると、1875円×60時間×1.25=14万625円をその月の残業代として請求することができます。
また、深夜労働に対する割増賃金、休日労働に対する割増賃金等も考えると、請求可能な残業代等はさらに高額になります。
上記は、一般例ですが、具体的な勤務形態、就労状況に照らし、最も有利な計算方法により残業代を計算する必要がありますので、その計算は複雑かつ難解になることが多いといえます。
特に、固定残業代(みなし残業代)が支払われている場合には、その金額を控除する必要があります。
また、所定労働時間を超えていても、法定の労働時間を超えていない場合には、会社は割増賃金を支払う必要がないため、この点も考慮する必要があります。
さらに、計算の前提となる労働時間をどのように証明するかという問題もありますので、具体的な請求を行う前に、弁護士にご相談することをお勧めします。
4 残業代の請求
残業代を実際に請求していくためには、まずは、会社に内容証明郵便を送付するなどして、任意で交渉するのが一般です。
会社が任意の交渉に応じない場合や交渉しても協議がまとまらない場合は裁判所へ労働審判の申立てを行うか、訴訟を提起する必要があります。
一般に、労働審判を利用することによりにスピーディーかつ簡単な手続での解決が期待でき、当事務所においても労働審判の利用を推していますが、手続の性質上、立証方法が限定されてしまうため、具体的な事案に応じて、採るべき法的手続を検討する必要があります。